「安定しているはずの公務員になったのに、もう辞めたい」——入庁して数年の若手職員から、こうした声を聞くことが本当に増えました。
これは気のせいではありません。総務省の調査でも、30歳未満の自己都合退職者は、この10年でおよそ2.7倍に増えています。かつて「辞めるなんてもったいない」と言われた公務員を、若手がどんどん離れているのです。
私は元公務員で、いまは民間企業で採用責任者をしています。「辞めたい側」の気持ちも、「採用する側」として転職者を見てきた経験も、どちらも持っています。
その両方の立場から、正直にお伝えします。若手公務員の転職は、決して「逃げ」でも「甘え」でもありません。ただし、勢いだけで辞めると後悔する人がいるのも事実です。
この記事では、なぜ若手が辞めるのか、そして採用する側から見て「転職して伸びる人」と「潰れる人」は何が違うのか、辞める前にやるべきことまでを整理します。
なぜ若手公務員の退職が増えているのか
「安定しているのに、なぜ?」と上の世代は不思議がります。でも、辞めたくなる理由には、ちゃんと共通点があります。
- 給与が上がる見通しが立たない……年功序列で、頑張っても若いうちは大きく増えない。民間の同世代との差を感じる。
- 仕事の裁量が小さい……前例踏襲・年次主義で、若手に任される範囲が限られる。「成長している実感」が持てない。
- 業務量と理不尽な対応の負担……人員削減で一人あたりの仕事は増え、クレーム対応や議会対応で消耗する。
- スキルが身につく不安……「このまま定年までいて、自分は何ができるようになるのか」という将来への危機感。
注目したいのは、4つ目の「成長への不安」です。昔は「安定」が何より魅力でしたが、いまの若手は「成長できる環境かどうか」を重視します。安定だけでは、心がもたなくなってきているのです。
ちち面接でも「成長できる環境を求めて」と話す若手公務員はとても多いです。その気持ち自体は、採用する側もよく理解できます。
勢いで辞める前に、一度立ち止まってほしい
辞めたい気持ちに共感したうえで、採用する側として一つだけ釘を刺します。「とにかく今がつらいから」だけで辞めると、転職先でも同じことを繰り返しやすいのです。
面接で「なぜ辞めたのか」を聞いたとき、不満や愚痴しか出てこない人は、採用側に「うちでも不満が出たらまた辞めるのでは」と見られます。逆に、つらさを乗り越えて「次はこうしたい」と語れる人は、強い。
つまり、辞めること自体が問題なのではなく、「何から逃げるか」ではなく「何に向かうか」を言葉にできているかが分かれ目になります。ここが、次の章の「伸びる人・潰れる人」の差に直結します。
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【タイプ別】その「辞めたい」、どう動くのが正解か
ひとくちに「辞めたい」と言っても、理由によって最適な動き方は変わります。よくある悩み別に、まず取るべき一手を整理しました。
| 「辞めたい」理由 | まず取るべき一手 |
|---|---|
| 給与・昇給に将来性を感じない | 構造的な問題。転職を本格検討。市場価値を調べる |
| 成長できない・スキルが不安 | 身につけたいスキルを言語化し、それが叶う環境を探す |
| 特定の上司・部署がつらい | まず異動希望を出す。改善しなければ転職へ |
| 業務量・残業がきつい | 原因が一時的か恒常的かを見極めてから判断 |
| 心身が限界に近い | 転職より先に休職・受診で回復を最優先 |
ポイントは、「転職でしか解決しないこと」と「他の手段でも解決すること」を切り分けること。給与や成長といった構造的な問題は転職が合理的ですが、人間関係や一時的な負担なら、別の選択肢が先かもしれません。
採用責任者が見た「転職して伸びる人・潰れる人」
同じ若手公務員でも、転職後に活躍する人と、早々につまずく人がいます。たくさんの転職者を見てきて気づいた、その違いを表にまとめました。
| 潰れやすい人 | 伸びる人 |
|---|---|
| 「今がつらいから」逃げで辞める | 「次に何をしたいか」目的を持って辞める |
| 民間なら全部解決すると思っている | 民間にも大変さがあると理解している |
| 「公務員の常識」を引きずる | 新しい環境のやり方をまず吸収する |
| 退職理由を不満・他責で語る | つらさを学びに変えて語れる |
| 準備せず勢いで飛び出す | 在職中に情報収集と棚卸しを済ませる |
見ていただくと分かるとおり、差は能力ではなく「向き合い方」です。右側の姿勢で動ける人は、若さという武器も相まって、想像以上に早く活躍します。



20代の転職は「ポテンシャル採用」が効きます。スキルが多少未熟でも、前向きさと素直さがあれば、採用側は喜んで投資します。若さは本当に強い武器です。
20代の転職市場は、いまむしろ追い風
「辞めても、行き先なんてあるのだろうか」——そう不安に思うかもしれません。でも、採用する側の実感としては、いまの20代は、かつてないほど転職しやすい環境にあります。
多くの企業が人手不足に直面し、若手の採用に苦戦しています。だからこそ、「これから伸びる若い人材」を、多少経験が浅くても育てる前提で採りたいというニーズが強い。これは20代だけに許された特権です。
しかも、公務員出身の若手は「真面目」「基礎的なビジネスマナーが身についている」と評価されやすい。組織でルールを守って働いてきた経験は、それだけで一定の信頼につながります。



採用の現場では「若くて、素直で、伸びそう」な人材の取り合いが起きています。20代というだけで、選択肢は想像以上に広いんです。
もちろん、年齢が上がるほどポテンシャル採用の枠は狭まります。「いつか転職するかも」と思っているなら、若いうちに動くほど有利。この事実は、判断の後押しになるはずです。
辞める前にやるべき3つのこと
では、「伸びる人」として動くために、具体的に何をすればいいのか。在職中にやっておきたい3つを挙げます。
1. 「辞めたい理由」を紙に書き出して分解する
まず、何がどうつらいのかをすべて書き出します。そのうえで、「転職しないと解決しないこと」と「異動や働き方で解決できること」を仕分けしましょう。
もし「上司が嫌なだけ」なら、異動で解決するかもしれません。でも「成長できない」「給与が頭打ち」といった構造的な問題なら、転職が合理的です。感情と構造を切り分けると、判断がぶれません。
2. 在職中に経験の棚卸しをしておく
「自分には何のスキルもない」と思い込んで辞めるのは危険です。公務員の経験は、伝え方次第でしっかり評価されます。担当業務・工夫したこと・規模感を、辞める前に書き出しておきましょう。
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3. 辞める前に、まず情報を集める
勢いで退職届を出す前に、転職市場を知ることが先です。在職中なら、焦らず腰を据えて選べます。どんな求人があり、自分の経験がどう評価されるのか、収入はどうなるのか——辞めてから知るのでは遅いのです。
20代・第二新卒に強い転職エージェントに登録して、客観的な市場価値の意見をもらうだけでも、視界がぐっと開けます。「辞めるかどうか」の判断材料として使うのもありです。
逆に、いったん踏みとどまった方がいい人
ここまで「動くなら早いほうがいい」とお伝えしてきましたが、採用する側として、正直に逆の話もしておきます。すぐには辞めない方がいいケースもあるのです。
- つらさの原因が「人」だけの場合……特定の上司や部署が原因なら、異動で解決することも。まず人事異動の可能性を探る価値はあります。
- 「何がやりたいか」がまったく見えない場合……目的のないまま辞めると、転職先選びで必ず迷走します。まずは自己分析から。
- 心身が限界に近い場合……これは別問題です。転職活動より先に、休職や受診で回復を優先してください。判断は元気になってからで十分です。
大切なのは、「辞める」か「残る」かの二択で焦らないこと。異動・休職・転職と、選択肢は複数あります。冷静に並べてから選んでも、決して遅くはありません。
公務員の3年は、ムダになっていない
「数年で辞めたら、これまでの経験はムダになるのでは」——そう考える人もいます。でも採用する側から見ると、公務員として働いた時間は、しっかり資産になっています。
たとえ短くても、組織で働いた経験から得たものは確かにあります。
- 基本的なビジネスマナー……報連相、文書作成、対外的な礼儀。社会人としての土台ができている。
- 正確に仕事を進める力……ルールに沿って、抜け漏れなく処理する習慣。
- 対人対応の経験……窓口や住民対応で鍛えた、人と向き合う耐性。
これらは民間でも通用する基礎力です。大事なのは、これらを「当たり前」で終わらせず、面接で語れる言葉に変えておくこと。短い在職期間でも、得たものを言語化できる人は、しっかり評価されます。「ムダだった」と思うかどうかは、捉え方しだいです。
よくある不安に、採用責任者として答えます
若手公務員からよく寄せられる不安に、「採用する側」の本音でお答えします。
Q. 入庁2〜3年での退職は、早すぎて不利になりませんか?
20代なら、短さ自体は大きなマイナスにはなりません。採用側が気にするのは年数より「辞めた理由を前向きに説明できるか」です。「成長環境を求めて」と筋が通っていれば、むしろ意欲的に映ります。ただし1年未満だと理由をより丁寧に語る必要があります。
Q. 民間でやっていける自信がありません
その不安は健全です。「民間は楽そう」と甘く見ている人より、よほど信頼できます。大切なのは、分からないことを素直に学ぶ姿勢。20代であれば、スキルより伸びしろを見てもらえます。最初から完璧を求められることはありません。
Q. 親や周囲に「もったいない」と反対されます
気持ちは分かりますが、人生を引き受けるのは自分です。反対する人は「安定」を心配しているだけで、あなたの仕事の中身までは知りません。感情論で押し切られず、前章の3ステップで集めた具体的な材料で対話すること。納得感のある計画があれば、周囲の見方も変わります。
Q. 在職中の転職活動は、時間が取れず難しいのですが…
たしかに大変ですが、在職中に動くメリットは絶大です。収入が途切れず、焦って妥協する必要もありません。書類作成や日程調整を代行してくれる転職エージェントを使えば、負担はぐっと減らせます。まずは情報収集だけでも、働きながら始められます。
まとめ:辞めるなら「逃げ」ではなく「目的」で
若手公務員が辞めたくなるのは、自然なことです。成長したい、もっと挑戦したいという気持ちは、むしろ健全なエネルギーです。
- 若手公務員の退職は10年で約2.7倍。「成長への不安」が大きな理由
- 辞めること自体は悪くない。問題は「逃げ」で辞めること
- 伸びる人と潰れる人の差は能力ではなく「向き合い方」
- 辞める前に①理由を分解 ②経験の棚卸し ③情報収集を在職中に
- 20代はポテンシャル採用が効く。若さは最大の武器
大切なのは、勢いで飛び出すのではなく、目的を持って準備すること。在職中にできることを終えてから動けば、若さという武器を最大限に活かせます。焦らず、でも前向きに、一歩を踏み出してください。
退職のタイミングや手続きで損をしないために、辞める時期の逆算も早めに押さえておくと安心です。










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