同じ「8社」という職歴を持つ二人について、私は正反対の判断をしました。一方は書類を通し、もう一方は見送っています。
通した方に書いたのは「経理や財務としてのポテンシャルが高そう」。見送った方に書いたのは「転職回数が多く、キャリアが分散している」。社数は同じです。差は一点だけで、職種が一本に見えるかどうかでした。前者は動いても経理と財務から出ておらず、後者は毎回まったく違う仕事に移っていました。
つまり回数そのものは、判断の材料になっていません。では何を見て「多い」と言っているのか。
この記事では、私が回数の代わりに見ている3つの数字と、実際に沈んだ説明・通った説明を並べます。回数の多さを強みとして棚卸しする話は「転職回数が多い人が実は持つ3つの強み」が担当なので、ここでは面接で聞かれたときの説明の作り方だけを扱います。
回数の代わりに見ている3つの数字
1つめ|1社あたりの平均在籍年数
最初にやるのは割り算です。社会人になってからの年数を、経験した社数で割る。この数字が私の中の目安になっています。
3年を切ると気になり、2年を切ると説明を求めます。逆に3年を超えていれば、社数がいくつあっても回数の話はしません。同じ7社でも、社会人歴が長い方なら書類を通していますし、短い方なら「不安な方」と書いています。見ているのは回数ではなく、密度です。
まず自分で割ってみてください。ここが3年を超えているなら、回数の説明にかける準備時間はほとんど要りません。
2つめ|直近の並び
次に見るのは、古い職歴ではなく直近です。ここは回数と独立して効きます。
回数そのものは多くない方について、私は「直近2社が連続で1年程度で早期離職しており、定着性に懸念」と書いて見送ったことがあります。回数が少なくても、直近が短く連続していれば落ちます。逆に、直近が長く続いていれば、その手前でどれだけ動いていても質問になりません。過去は「そういう時期があった」で終わるからです。
ちち直近が続いている人は、こちらが「もう落ち着いた人だ」と読むので、それより前の話に興味が向かないんです。
3つめ|回数の話をしなくて済む材料が1つあるか
3つめは数字というより有無です。回数以外に、判断の根拠になるものが1つあるか。
冒頭の二人がまさにこれです。通した方は職種としての厚みが回数を上回りました。別の方についても「短歴が多いのでNGかもしれませんが」と書き添えたうえで先の選考に進めて、客観的な指標が基準を超えたので通過しています。回数が見えていても、他に読むものがあれば、そちらを読みます。
だから、回数が多い方が用意すべきなのは弁解ではありません。自分の職歴のどこが一本に見えるかを、先に名指しすることです。職種でも、扱ってきた対象でも、担ってきた役割でも構いません。分散して見える職歴は、たいてい本人の中では一本につながっています。それを言葉にしていないだけです。
材料になるのは、業務に直結する資格、数字で語れる実績、選考の中で測れる客観指標です。ひとつあれば、回数は論点から降ります。逆にひとつも無いと、こちらは回数しか見るものがありません。
正直に書くと、二桁からは私の読み方が変わる
ここは自分の側の話として書きます。社数が二桁になると、私はスキルを見る前に「続かなかった理由」を探し始めてしまいます。
褒められた読み方ではありません。本来はひとつずつ事情を確かめるべきで、先に結論の枠を作ってから読むのは公平ではない。ただ、実際にそうなっているので隠さずに書きます。二桁の方は、こちらが理由を探し始める前に、自分から並びの意味を出す必要があります。
やり方は難しくありません。最初に総括を一言置くだけです。「社数は多いのですが、専門を◯◯に寄せていく過程で、業界を横に移ってきました」——先に枠を渡してしまえば、こちらは勝手な枠を作りません。
沈むのは、辞めた理由だけが並ぶとき
実際に評価を下げた説明を3つ挙げます。回数が多い方に共通して起きるものです。
退職理由が書かれていない。社数が多いのに、なぜ辞めたのかが1社ぶんも書かれていない書類があります。この方は書類を通しましたが、「経験社数は多いが、退職理由の記載がない点は気になる」と明記しました。社数がさらに多くて理由が無い場合は、面接まで進みません。空欄はこちらから見ると情報がゼロなので、良いほうに解釈する余地がありません。
「区切りが来たら出る人」に見える。1社ずつの理由を読むと、どれも正当なのです。担当が一段落した、プロジェクトが終わった、後任が育った。それでも全体を並べて眺めると「区切りができると転職している」という形が浮かびます。私はこの形を見ると、長期の雇用がイメージできなくなります。1社ずつの正当性は、全体の印象を打ち消してくれません。
現職の年収への不満を経歴書に書く。これは一発で厳しくなります。事実として不満があるのは分かるのですが、書類は職務を説明する場所なので、そこに待遇の不満が書かれていると、読む側は職務の中身を追えなくなります。年収の話は面接の後半に、条件のすり合わせとして出してください。
通るのは、次で取りに行ったものが並ぶとき
通した方の説明を並べ直すと、共通点はひとつでした。移動のたびに「次でこれを取りに行った」が付いていることです。
辞めた理由と、次で取りに行ったものは、同じ出来事の裏表です。ただ並べたときに見える形が正反対になります。辞めた理由を並べると「逃げてきた線」に見え、取りに行ったものを並べると「積んできた線」に見える。職歴は同じなのに、です。
もう一つ、こちらが勝手に読んでいるものがあります。並びが上向きに見えるかどうかです。ある方の職歴について「途中まではキャリアアップしている雰囲気は感じる」と書いたことがあります。役割の範囲、任された規模、扱う相手——どれか一つでも段になっていれば、移動の多さは「積み上げ」として読まれます。段は、自分で指し示さないと見えません。
だから準備することは1つだけです。社数と同じ数だけ、「次でこれを取りに行った」を用意する。取りに行って取れなかったものがあれば、それも言っていい。取りに行ったこと自体は残ります。
私の並びで割り算してみる
基準を出しておいて自分を測らないのは不公平なので、自分の職歴を割ってみます。
市役所に6年9ヶ月、大手IT企業に2年9ヶ月、そのあと1年2ヶ月ほど独立して、いまの会社が1年8ヶ月。社会人になってから12年で、区間は4つ。割り算すると1区間あたり3.1年です。
つまり私は基準ぎりぎりの上、しかも直近は短い側です。いま自分が応募したら、2つめの「直近の並び」で説明を求められる立場になります。基準を作っている側が余裕で通るわけではありません。
そのうえで、公務員から出る人に向けて1つだけ。公務員からの1回目の転職では、回数はまだ論点になりません。1社目が長いので割り算は必ず基準を超えますし、こちらの関心は「民間で通用するか」に向いています。回数が論点になるのは2回目以降です。1回目の時点で回数の説明を練り込む必要はないので、その時間は経歴の翻訳に回してください。手順は「公務員の職務経歴書の書き方」にまとめました。
①社会人年数 ÷ 社数(3年を超えていれば、回数の準備は要らない)→ ②直近の在籍が続いているか(短く連続していたら、そこだけ説明を用意する)→ ③回数以外の材料が1つあるか(資格・数字の実績・客観指標)。3つとも問題なければ、回数は聞かれても一言で終わります。
職歴に空白がある方は、回数と空白が重なった瞬間に扱いが変わります。その線引きは「面接のブランクは何ヶ月から聞かれるか」に月数で書いています。
回数は、変えられません。変えられるのは並べ方だけです。同じ職歴を、辞めた理由で並べるか、取りに行ったもので並べるか。そこだけが自分の手の中にあります。










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