30代の面談で提案の質を決めているのは、話し方でも意欲でもありません。面談の場に、どれだけ細かい材料を持ち込んだかです。同じ職歴でも、材料が粗い人には広く浅い求人が届き、細かい人には条件を絞った求人が届く。担当者の力量差だと思われがちなこの違いは、実際にはこちら側の準備でほとんど説明がつきます。
30代の中途採用を担当していると、エージェント各社から推薦文が届きます。届く推薦文を見ていると、本人が何を渡したかがだいたい分かる。この記事は、面談前に手を動かして作る材料の中身だけを、順番に書きます。
なぜ材料の粒度が、そのまま提案の粒度になるのか
担当者は、あなたから聞いた話を企業に伝える形に組み替えて売り込みます。20代なら意欲や人柄で組み立てる余地がありますが、30代は違う。企業が30代に対して聞きたいのは「うちでも同じことが起こせるか」の一点なので、材料が「マネジメント経験あり」の粒度で止まっていると、推薦文もその粒度で止まります。
私の手元に届く推薦文で言うと、「リーダー経験があり、マネジメント可能」と書かれたものは、正直なところ読み飛ばします。判断材料がないからです。一方で「評価制度のない5人チームで簡易な目標管理を導入」と一行あれば、そこだけで面接に呼ぶ理由になる。この差を作っているのは経歴の差ではなく、面談で担当者が受け取った材料の差です。
面談前に書き出す「3行×3件」
作るのは職務経歴書ではありません。面談で口頭で出せればいいので、メモで足ります。1件につき3行、それを3件。所要時間は30分程度です。
- どんな状況だったか——「立ち上げ期で人も仕組みもなかった」「前任が退職して引き継ぎ資料がなかった」など、その仕事の難しさが決まった条件を書く。ここが抜けると、成果の大きさが判断できません。
- 自分は何をしたか——チームの成果ではなく、自分が動かした部分だけを書く。「業務フローを作り直し、4人に割り振った」のように、主語を自分に固定します。
- その後どうなったか——数字が出るなら数字で。出ないなら、変わった状態を書く。「毎月出ていた差し戻しが月1件以下になった」で十分です。
具体的にはこうなります。前任の退職で引き継ぎ資料がないまま契約管理を任された、という件なら——状況:前任が年度末で退職し、年間200件を超える契約の管理台帳が個人のExcelにしか残っていなかった。やったこと:台帳の項目を整理し直して共有フォルダに移し、更新期限のアラートを設定。関係する4部署を回って運用を説明した。その後:更新漏れによる意図しない自動更新が、前年3件から0件になった。
成果としては地味です。売上も伸びていません。それでもこの3行があれば、担当者は「壊れた管理体制を立て直せる人」という軸で求人を選べます。地味であることは問題になりません。他人が判断できる形になっているかどうかだけが問題です。
3件の選び方にはコツがあります。一番大きな成果を3つ並べるのではなく、種類の違う3つを選ぶこと。ひとつは数字が動いたもの、ひとつは人が絡んだもの、ひとつはうまくいかなかったものを入れておく。担当者は、この3件の組み合わせから「どういう場面で強い人か」を読み取って求人を選びます。同種の成功例を3つ並べると、その一種類の求人しか届かなくなります。
数字が出ない仕事に、数字をつける
3行目でつまずく人が多い。営業や事業側なら売上や件数がありますが、管理部門、行政、内部調整が中心の仕事では「増えた数字」が存在しません。私が公務員から民間に移ったときも、ここで手が止まりました。
成果の数字がないなら、規模と頻度の数字で置き換えられます。関わった人数、扱った件数、対象となった金額、期間、巻き込んだ部署の数。これらは成果ではありませんが、仕事の大きさは伝わる。「調整業務」は判断材料になりませんが、「7課にまたがる調整を、3か月で合意まで持っていった」なら判断できます。
もうひとつ効くのが、減った数字です。差し戻しの回数、問い合わせの件数、確認の往復、かかっていた日数。増やす仕事より減らす仕事のほうが多い職種では、こちらのほうが実態に合います。減った数字は正確でなくてかまいません。「体感で半分になった」と前置きして言えば、面談では材料として機能します。
非公開の求人が回ってくるかどうかも、ここで決まる
30代がエージェントに期待することのひとつが、公開されていない求人です。ただ、非公開求人は「特別な人にだけ見せる隠し球」ではありません。企業が公開しない理由は、ほとんどが「条件を細かく絞っているので、広く募集すると応募が処理しきれない」というものです。私が非公開で出すときも、理由は在任者の入れ替えを伏せたいか、要件が狭くて広告に載せる形にできないかのどちらかです。
つまり非公開求人は、条件が狭いぶん合致の判定が細かい。担当者があなたの材料を粗くしか持っていなければ、その狭い条件に当てはめる作業ができず、候補として上げられません。「非公開求人はありますか」と聞くより、3行×3件を先に渡すほうが、結果的に届く確率は上がります。
管理職クラスや専門領域まで視野に入れるなら、30代のハイクラス転職で見られる条件もあわせて確認しておくと、材料の作り方がもう一段はっきりします。
材料が足りないまま進めたときに起きること
準備なしで面談に行った30代に起きるのは、提案が来ないことではありません。妥当そうに見える提案が、たくさん来ることです。現年収と職種と勤務地だけで機械的に絞れば、それらしい求人は何十件でも出せる。判断材料がないので断る理由も見つからず、なんとなく数社受けて、なんとなく決まる。入社後に「思っていたのと違う」となる経路の多くはこれです。
年収の話も同じところに帰結します。材料がないまま「今より上げたい」とだけ伝えると、担当者は現年収を基準に置くしかない。逆に3行×3件があると、そこを根拠に交渉の起点を作れます。実際にどこまで動くのかはエージェント経由の年収交渉のリアルに書いたとおりで、上がる幅にも相場があります。
なお、同じ3行×3件は複数の担当者に使い回せます。1社だけだと提案の当たり外れが担当者個人の力量に左右されるので、材料を作ったあとに複数に当てて反応を見比べると、材料そのものの精度も分かります。同じメモを渡して返ってくる求人がまるで違うなら、原因は材料ではなく担当者のほうです。
30分の手間が、その後の提案すべてに乗る
3行×3件、数字がなければ規模・頻度・減った数で代替する。作業としてはこれだけです。ただ、この30分で書いたメモは、面談だけでなく推薦文にも、書類にも、面接の受け答えにも、そのまま乗っていきます。30代の転職で効いてくるのは実績の量ではなく、その実績を他人が扱える形にしてあるかどうかです。


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